結晶相の制御によるエルビウム酸化物ナノ粒子の発光増強

Almohammed, B., Barba, D., Haddad, E., Rosei, F., Vetrone, F. “Photoluminescence Enhancement in Erbium Nanoparticles via Controlled Phase Transformation.” Small 2026, 22, e11510. https://doi.org/10.1002/smll.202511510

背景

 エルビウム酸化物(Er₂O₃)は、三価のエルビウムイオン(Er³⁺)が複数の準安定な電子準位と長寿命の励起状態をもち、近赤外光の吸収と効率的な可視発光を示すことから、光増幅器やレーザー、光電子素子の材料として近年注目されている。Er³⁺の可視発光は、イオンを取り囲む酸素原子の配位(いわゆる「酸素かご」)が定めるEr─O結合の秩序に強く依存する。こうしたナノ粒子は、界面活性剤を用いずに高純度の粒子が得られる液中パルスレーザーアブレーション(PLAL)で合成でき、素子化の工程では成膜や繊維延伸などで数百〜千度の加熱を受ける。

従来の問題点

 しかし、合成直後のEr₂O₃ナノ粒子は準安定な単斜晶と安定な立方晶が混在し、水酸基などの不純物や構造欠陥・無秩序を含むため、非放射的な緩和によって発光効率が低下する問題がある。とくに単斜晶はEr─Er間およびEr─O間の距離が長く分布も広いため、立方晶より発光効率が低い。

結果

 そこで、本研究ではPLALで合成した粒子を200〜1000度で段階的に焼鈍し、X線回折・電子顕微鏡・X線光電子分光・発光分光によって構造と化学状態を系統的に調べることで解決した。600度の焼鈍で混合相から純粋な立方晶へ完全に転移し、エルビウムの酸化状態が高まって水酸基が除去され、665 nm付近の赤色発光が最大となることを見いだした。立方晶は酸素6配位で、Er─OおよびEr─Erの距離が短縮するため放射遷移が強まる。Cobolt社製の473 nm連続波レーザー(Cobolt 04-01)は、発光分光装置の励起光源として、焼鈍温度に対するナノ粒子の発光応答を測定する目的で使用された。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • 液中パルスレーザーアブレーション(PLAL):液体中に沈めた固体標的へ強力なパルスレーザーを照射し、飛散した物質から界面活性剤を使わずに高純度のナノ粒子を得る合成法。
  • 準安定相:熱力学的に最も安定ではないが、ある条件下で比較的長く存在できる結晶相。本論文では単斜晶Er₂O₃が該当し、加熱により安定な立方晶へ転移する。
  • 非放射緩和:励起されたイオンが光を放たず、格子振動(熱)などとしてエネルギーを失う過程。欠陥や無秩序が多いほど生じやすく、発光効率を下げる。

発光測定に使用された473nmレーザー

473nmレーザー
473nmレーザー

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