Guo, S., Frempong, S.B., Salbreiter, M., Wagenhaus, A., Rösch, P., Popp, J., Bocklitz, T. “Graph Neural Network in Raman Spectroscopy to Leverage the Performance and Interpretability of the Classification.” Chemistry–Methods 2026, 6, e70119. https://doi.org/10.1002/cmtd.70119
光を当てた分子の振動に応じて波長がわずかに変わる散乱光を捉えるラマン分光は、試料を傷つけず、標識も付けずに分子の指紋となる情報を得られることから、生物医学の分野で急速に応用が進められている。この指紋は成分の違いを細かく映すため、機械学習と組み合わせれば、病気の早期診断や生命現象の理解に結び付けられる。細菌の種類の判別のように、あらかじめ種類が分かっている試料で分類器を学習させ、未知の試料を判定する使い方が一般的である。
しかし、生物試料は培養ごと、患者ごとに避けがたい差を持ち、注目すべきわずかな違いがその差に埋もれてしまう問題がある。さらに装置ごとの波数のずれや強度の変動も重なるため、ある装置で学習させた分類器を別の装置で測った試料に適用すると、精度が大きく落ちる。実際、広く使われる主成分分析と線形判別分析を組み合わせた手法や、深層学習を用いたRamanNetでは、装置をまたぐと四種の細菌の判別が当てずっぽうと同程度まで低下する。
そこで、本研究では、スペクトルを節点と辺のつながりで表される構造(グラフ理論でいうグラフ)に置き換え、これをグラフニューラルネットワークで分類することによって解決した。まず主成分分析と二次元相関解析によって分類に効く波数の位置を選び出して節点とし、その周辺の波形を節点の特徴とする。次に自己符号化器を用いて、節点同士の結び付きの強さを表す隣接行列を学習させ、これを辺とする。こうして得た構造を分類器に入力する。四種の細菌を三台の装置で測った三組のデータと、八種の油のデータで検証したところ、装置をまたぐ判定における均衡精度は0.466と0.453となり、従来手法の0.25から0.34を明確に上回った。さらに辺の重みのばらつきから分類に寄与した波数を特定でき、既知の帰属と一致した。Cobolt社製レーザーは、三台目の装置における励起光源(Cobolt DPL 532、波長532 nm、使用出力12 mW)として使われ、装置間での転移性を検証するためのラマンスペクトルの取得を担った。
※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成(背景・従来の問題点・結果)で再構成した日本語要約です。
【用語解説】
- グラフニューラルネットワーク(GNN):節点と、節点同士を結ぶ辺とで表されたデータを扱う機械学習の模型。各節点の特徴を隣り合う節点から集めて更新する操作を繰り返すため、要素そのものの値だけでなく要素間の関係も学習に使える。なお、ここでいうグラフとは、縦軸と横軸に量を描く折れ線グラフのことではなく、点とそのつながり方を扱うグラフ理論の用語である。
- 自己符号化器:入力を一度少ない次元に圧縮し、そこから元の入力を復元するように学習させる神経回路網。圧縮された内部の表現にデータの本質的な構造が凝縮される。本研究では、この内部表現を節点間の結び付きを表す隣接行列として利用した。
- 均衡精度:分類の群ごとに正答率を求めて平均した指標。試料数が群によって偏っていても、数の多い群に引きずられずに性能を評価できる。

