アーチファクトを考慮したブリルアン顕微法による植物根の力学特性のその場計測

Landes, T., Hammerschmidt, O.C., Wallentin, L.P., Ud Din, G.N., Morsbach, J., Baez, L.A., Heinemann, D. “Artefact-aware Brillouin microscopy framework for root mechanical phenotyping.” Journal of Microscopy 2026. https://doi.org/10.1111/jmi.70173

背景

 植物の根は、成長する環境から受ける力学的な信号を絶えず感じ取り、それに応じて性質を変えている。根冠の働きや粘液の分泌、ホルモンによる調節が組み合わさって根端の硬さや粘りが決まり、締め固まった土層を押し進むか、障害物を避けて向きを変えるかが左右される。こうした性質を、試料に触れず標識も付けずに測る方法として、物質中を伝わる音波による光の散乱を使うブリルアン顕微法がある。細胞より細かい尺度で縦弾性率の分布をその場で描き出せ、ラマン分光と同じ光学系に組み込みやすい。

従来の問題点

 しかし、根の力学的性質を測る従来の手法は、根を育った培地から取り出す必要があり、成長の過程で蓄えられていた応力が解放されてしまう問題点がある。取り出すときの曲げ自体が力学感受性の経路を働かせるため、測定がその後の成長を乱し、同じ根を追跡して繰り返し測ることができない。

結果

 そこで、本研究では3D印刷で作製した育成兼観察容器RoPodに根を収めたまま、ブリルアン散乱とラマン散乱を同じ焦点位置で取得する枠組みを構築することによって、解決した。Cobolt社製の単一縦モード532nmレーザー Samba を偏波保持ファイバで顕微鏡へ導き、開口数0.42の対物レンズで直径1.5 µmの集光点を作って試料上10〜12 mWで照射する。180°後方散乱光を集め、ブリルアン成分は3+3パスのタンデム型ファブリ・ペロー干渉計で、ラマン成分は分光器で同時に解析する。ラマンスペクトルから根と培地の寄与を分離し、根だけの信号を取り出した。同じ根を繰り返し走査しても発育に変化は見られず、培地の濃度が高いほどブリルアン周波数シフト・線幅・損失正接がいずれも低下し、根が周囲の硬さに応じて自らの力学的性質を調整していることが示された。容器の形状や試料の扱いに由来する偏りも併せて定量された。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成(背景・従来の問題点・結果)で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • ブリルアン周波数シフト:物質中を自発的に伝わる音波によって散乱光の周波数がわずかにずれる量。縦弾性率と密度・屈折率で決まり、硬い部位ほど大きくなる。
  • 損失正接(tan δ):ブリルアン線幅を周波数シフトで割った値。弾性に対する粘性的な散逸の割合を表し、大きいほど粘りが強い。
  • タンデム型ファブリ・ペロー干渉計:2組の平行平面鏡を直列に並べ、間隔を走査しながらごく小さな周波数差を分離する分光器。強い入射光のすぐ近くにある微弱なブリルアン散乱光を取り出せる。

ブリルアン・ラマン顕微分光に使用された532 nmレーザー

Cobolt 532nmレーザー
532nmレーザー